2007年12月号…特集・奄美大島のシャ‐マンの祭「今井大権現祭」島の深い精神世界を今に伝える伝統行事・海と森で女神と男神を結び合わせる…奄美大島にはユタと呼ばれる原初信仰のシャ‐マン(霊能力者)が多い、これまで、奄美の精神世界の深層を物語る存在として学術的にも注目されてきた。道路、港湾、空港など各種基盤が整い、本土とほとんど変わらない便利な暮らしが実現した今も、毎年ユタは誕生。市民も折につけてユタとかかわり、共存している。ここ数年、全国的にも知られるようになった。ユタの最大の祭りである「今井大権現祭」を紹介する。旧暦9月9日(2007年10月19日)早朝。大島郡龍郷町安木屋場集落の海岸。沖に立つ三角岩の立神に向かい、約20人の子ユタが集まった。「今井大権現祭」。海から招いた女神と天上の男神とを結び合わせる儀式。航海安全や縁結び、無病息災を祈る。この日は島内だけでなく本土からも白装束姿の子ユタが集い、海と山を巡る年に一度の神祭りを厳かに執り行った。神事は潮が満ち始めるころ、浜辺で始まった。数珠と剣を身に着けたユタが海水で身を清めた後、祭り岩に立ち並んだ。今井神社の神主でユタの親神でもある阿世知照信さん(79)の祝詞に合わせ、ススキを揺らして海のかなたから女神を呼び寄せた。続いて近くの山頂にある今井神社の森へ移動。159の急な石段を登り、神社の祭壇に米や果物を供えた。さらに、近くの森の中で男神を君臨させる儀式を行った。打ち鳴らされる太鼓の音、祝詞、掛け声とともにユタの踊りや祈りも激しくなり、神がかり的な状態へ。その後、集落民が参拝に訪れた社殿でも踊りが披露された。阿世知さんによると、祭りは300年前ごろから盛んになったとされ、近年は鹿児島や神戸などから参加するユタもいるという。親ユタの阿世知さんは、龍郷町 安木屋場 出身。幼いころからユタだった祖父にカミの存在や伝統行事など多くのことを教えてもらった。7歳でカミの儀式をし、10歳で体の調子が悪くなったが、今井権現に登ると良くなったという。この時、7.8人のカミの姿を幻視した。19歳で41度の高熱を出し、生死の境をさまよったが、必死で今井権現に登り、土に埋もれていた鏡を掘り出した。24歳まで漁業に従事し、その後、名瀬に出て、33歳から再び漁に出た。41歳で大病、カミを拝むように。夫人もユタ。漁師で夫婦でシャ‐マンという珍しい存在。伝統の儀式をマスコミなどにも公開し、市民の理解を得るなどユタと市民の「共生」「共存」に尽力した。「島のカミはすべて自然です。自然から はずされないように生きなさい、というのが奄美です」。今井権現やユタの心得、ケンムンのことなどを記した「阿世知ノ‐ト」は龍郷町誌に収載され、「ユタの生き方や信仰、祭りは、かなり完成度が高く、奥深い確固たる観念体系があることを察知できる有力な参考資料」(山下欣一、鹿児島国際大名誉教授)とされる。ノ‐トは 自身の中で見えたイメージを文章や絵で記したもの。絵は自宅2階の「神殿」横のふすまにも描かれている。
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