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奄美大島・ユタ神様
  鹿児島
神の島の白いシャ‐マン1
2011/04/06 23:40

1991年(平成3)9月…太陽…世紀末の贅沢、近未来の冒険‐巫女(みこ)に会う・・神の島の白いシャ‐マン 荒俣 宏‐全文を記入‐‐奄美大島の土を踏むのは、かれこれ二十年ぶり、ということになる。もちろん二十年前は船旅だった。神戸港中突堤(なかとってい)から〈波の上丸〉と小さな定期船で、十数時間かけて名瀬に着き、こんどは七曲りの山道を一時間ほどバスに揺られて、あやまる岬にたどりついたものだ。目の前にひろがる亜熱帯の海を見て、ここはパラダイスか、と、しばし陶然(とうぜん)とした昔を、思いだした。まるで陽炎(かげろう)の立つ砂洲かと錯覚するほど透明な海でトルコ石のように神秘的な青色をかがやかせる熱帯魚、コバルトスズメを一心に追いまわしたのが、二十年前。しかし、今回は便利な飛行機の旅である。あやまる岬のすぐ近くに降りたち、車でサトウキビ畑のあいだを抜けると、なつかしい南風の匂いのする眺望(ちょうぼう)がひらけた。あたりのたたずまいはそれほど変わっていない。聖地を俗地に一変させる若い女性観光客の姿も、海辺には見あたらなかった。亜熱帯のパラダイスは健在だったのである。奄美大島のシャ‐マンと出会う旅を約束されたとき、まず何よりも先に見ておきたかったのが、本島北部の霊的な眺めだった。あやまる岬には、有名な〈聖なる泉〉がある。年に三回、ショ‐ジ(精進の訛りという)の儀式をおこなう巫女(みこ)たちが神がかりになり、海岸まで走っていって波の穂を掬(すく)いあげ、泉にある岩の祭壇にささげる。波の穂とは海の塩のことで、水神を迎える儀礼だという。あやまる岬から海岸へ向けて坂を下ると、道路ぞいのアダンとソテツの林の中に、めざす泉があった。水が崖から流れおちて、岩のくぼみに溜りをつくる場所だ。あいにく今年は空梅雨で、泉が涸れてしまっている。ここから、すばらしいアダン林を抜けて海岸へ出るまで300メートルほどの道のりがあるたろうか。老いた巫女も神がかり状態でこの距離を走り通すという。それも、壮年の男たちに追いつけぬような速度で。奄美のシャ‐マンは、まさに海のシャ‐マンだ。本島で最も多くシャ‐マンを出す霊地のひとつ、今井大権現下の安木屋場では、住民はかつて漁業をなりわいにしていた・聖なる泉からさらに 北へ30分ほど車を走らせると、亜熱帯色の海をよぎるように、切りたった緑の山がそびえたち、そこからさらに沖へむかって、〈立神〉が突きでてたいる。久遠(くおん)の眺めの前では、時間もとまる。思わず車を停めさせ、遥かな岬に見とれた。「あの山頂が今井大権現です。安木屋場はその裏側になりますね」。と神戸からのUタ‐ン組と称するタクシー運転手が説明してくれた。

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